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東京地方裁判所 平成6年(ワ)10503号 判決

本訴原告(反訴被告) 株式会社トータルサービス

右代表者代表取締役 山口恭一

右訴訟代理人弁護士 山上芳和

右訴訟復代理人弁護士 藤井圭子

本訴被告(反訴原告) 株式会社ケーエムサービス

右代表者代表取締役 二見政行

〈他1名〉

右両名訴訟代理人弁護士 小島昌輝

主文

一  本訴被告(反訴原告)株式会社ケーエムサービスは、平成一一年七月一日から平成一四年八月二〇日までの間、日本国内において、別紙物件目録記載の洗浄機器(移動用ユニット)及び原告が販売する特殊洗浄剤「スパークルウォッシュケミカル」を用いた建造物・車両・機械の特殊洗浄事業(スパークルウオッシュ事業)と類似又は競合する事業を行ってはならない。

二  本訴被告(反訴原告)株式会社ケーエムサービス及び本訴被告二見政行は、本訴原告(反訴被告)に対し、連帯して一〇三四万六六〇〇円及び内金一三三万九〇〇〇円に対する平成四年一二月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員、内金三〇〇万七六〇〇円に対する右同日から支払済みまで日歩五銭の割合による金員、内金六〇〇万円に対する平成九年九月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  本訴原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び反訴原告(本訴被告)株式会社ケーエムサービスの反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、本訴原告(反訴被告)に生じた費用の四分の一と本訴被告(反訴原告)株式会社ケーエムサービスに生じた費用の二分の一を本訴被告(反訴原告)株式会社ケーエムサービスの負担とし、本訴原告(反訴被告)に生じた費用の八分の一と本訴被告二見政行に生じた費用の四分の一を本訴被告二見政行の負担とし、その余の費用は本訴原告(反訴被告)の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

1  本訴被告(反訴原告)株式会社ケーエムサービスは、平成一一年七月一日から平成一四年八月二〇日までの間、日本国内において、洗浄剤又はワックス及び動力を用いた洗浄機器を使用した建造物・車両・機械を対象とした洗浄業務又はこれに類似しあるいは競合する業務を行ってはならない。

2  本訴被告らは、本訴原告(反訴被告)に対し、連帯して金九五六八万五六〇〇円及び、(一)内金一三三万九〇〇〇円に対する平成四年一二月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員、(二)内金三〇〇万七六〇〇円に対する同日から支払済みまで日歩五銭の割合による金員、(三)内金一三三万九〇〇〇円に対する平成五年一二月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員、(四)内金一〇〇〇万円に対する平成八年一二月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員、(五)内金八〇〇〇万円に対する平成九年九月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  反訴

反訴被告(本訴原告)は、反訴原告(本訴被告)株式会社ケーエムサービスに対し、金一二六二万九四五二円及びこれに対する平成六年六月八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本訴事件は、本訴原告(反訴被告、以下「原告」という。)が、「スパークルウォッシュサブライセンシー契約」(以下「本件契約」という。)に基づき、本訴被告(反訴原告)株式会社ケーエムサービス(以下「被告会社」という。)に対し、口頭弁論終結の日の翌日である平成一一年七月一日から平成一四年八月二〇日までの競業の禁止を求めるとともに、被告会社に対しては本件契約に基づき、本訴被告二見政行(以下「被告二見」という。なお、被告会社及び被告二見を以下「被告ら」という。)に対しては連帯保証契約に基づき、(一)平成四年一二月二〇日に支払うべきロイヤリティー一三〇万円に消費税相当額を加えた一三三万九〇〇〇円、(二)平成五年一二月二〇日に支払うべきロイヤリティー一三〇万円に消費税相当額を加えた一三三万九〇〇〇円、(三)本件契約上被告会社に課せられた報告義務に被告会社が違反したことによる違約金一〇〇〇万円、(四)本件契約終了時の被告会社の義務である「念書」作成義務に被告会社が違反したことによる違約金一〇〇〇万円、及び(五)本件契約上被告会社に課せられた競業禁止に被告会社が違反したことによる違約金七〇〇〇万円並びにそれぞれの金員に対する遅延損害金の連帯支払を求め、さらに、被告会社に対しては、本件契約に基づく事業に必要な別紙物件目録記載の洗浄機器(移動用ユニット、以下「本件物件」という。)の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)に基づき、被告二見に対しては連帯保証契約に基づき、平成四年一二月二〇日に支払うべき賃貸料三〇〇万七六〇〇円(消費税相当額を含む。)と遅延損害金の連帯支払を求めた事件である。

反訴事件は、被告会社が原告に対し、本件契約の詐欺による取消に基づく不当利得返還請求、本件契約締結時の債務不履行ないし不法行為による損害賠償、又は本件契約の合意解除に基づく原状回復として、被告会社が原告に支払った権利金一〇六二万九四五二円及び保証金二〇〇万円の合計一二六二万九四五二円と遅延損害金の支払を求めた事件である。

一  争いのない事実

1  原告の事業

原告は、米国籍会社であるSPARKLE・INTERNATIONAL・INC(以下「米国本社」という。)との間で、同社が開発した特殊洗浄用機材を用いて、同社の有するトレードマーク等を使用して行う特殊洗浄事業の日本国内における独占的実施契約を締結し、右契約に基づき、日本国内において、右特殊洗浄事業を行っている。

2  本件契約

原告は、被告会社との間で、平成元年一二月二〇日、右事業に関し本件契約を締結したが、本件契約には次の条項が存在する。

(一) 事業の内容

本件契約は、米国オハイオ州籍企業である米国本社の行う同社開発等にかかる特殊移動用洗浄機械・洗浄剤その他特殊設備を用いた建造物・車両・諸施設・機器の特殊洗浄事業(後記SW消耗品の販売も含む。)を、同社の用いるSPARKLE・WASHの名称のもとに、同社のサービスマーク・トレードマーク等を用いて行う事業(以下「本事業という」という。)に関するものであって、原告は、本事業につき、米国本社から日本全域をテリトリーとする独占権的実施権を取得し、サブライセンシー(被告会社)は、原告の有する独占的実施権に基づき、本条に定める範囲において本事業を実施する権利を有する(本件契約一条、以下かっこ内の条文は本件契約の条文を示す。)、サブライセンシーが業務に使用する洗剤・ワックス・薬品は、原告を通じて米国本社の提供するもの(以下「SW消耗品」という。)を使用する(五条一項)。

被告会社は、相模原市、厚木市、町田市の地域内において、原告が許諾する方法に従い、本事業を行うことができる(二条一項)。

(二) ロイヤリティーの支払に関する条項

被告会社は、原告に対し、次のとおり、ロイヤリティーを支払う。

(1) 金額(一四条一項)

ア 契約成立日から三年間 毎年一二〇万円

イ 四年目から六年目 毎年一三〇万円

ウ 七年目から一〇年目 毎年一四〇万円

(2) ロイヤリティーは、初回は二年分、それ以降は、一年分ずつ毎年契約成立月日(一二月二〇日)までに翌年分を支払う。ただし、各年度のロイヤリティーは、被告会社が本事業を開始した日から一年分の対価とする(一四条二項)。

(3) 被告会社が、前項のロイヤリティーの支払を一回でも怠ったときは、原告は、本件契約を解除することができる。この場合、被告会社は、既払ロイヤリティーの返還を請求できない(一四条三項)。

(4) 被告会社は、本件契約が終了した後も、原告に後記(5)の念書を作成交付するまでは、ロイヤリティーを支払う(二三条)。

(5) 解除により本件契約が終了した場合、被告会社は、原告から貸与又は支給を受けた資料その他本業務遂行に必要な一切のものを原告に返還し、以後これを使用してはならないものとする。また、被告会社が、原告から有償で取得したもの及び被告会社が原告の許諾を得て自ら作成した本事業に関する資料及びSW消耗品についても、以後一切使用してはならず、この旨の念書を作成して原告に交付する(二二条一項)。

(三) 報告義務と違約金に関する条項

(1) 被告会社は、原告に対し、次の事項について、毎月一日から一五日までのものについては当月二〇日までに到達する書面で、また、毎月一六日から末日までのものについては翌月五日までに到達する書面で、それぞれ報告する(一一条四項)。

ア 期間総売上げ 売上げの内訳(顧客名、住所、電話番号、担当者名、金額、物件の種類、数量)、物件の所在場所、受注形態

イ 就業人員

(2) 被告会社が右の義務に違反した場合、原告に対し、一〇〇〇万円の違約損害金を支払う(二五条)。

(四) 念書交付義務と違約金に関する条項

(1) 前記(二)(5)のとおり

(2) 被告会社が右条項に違反した場合には、原告に対し、一〇〇〇万円の違約損害金を支払う(二五条)。

(五) 競業禁止と違約金に関する条項

(1) 被告会社は、本件契約中及び本件契約終了後一〇年間は原告からノウハウの教示を受けた事業と類似又は競合する事業を行ってはならない(二二条三項)。

(2) 被告会社が右約定に違反した場合、七〇〇〇万円の違約損害金を支払う(二五条)。

3  本件賃貸借契約

原告は、被告会社との間で、平成元年一二月二〇日、本件契約に定められた洗浄機器である本件物件について次のとおり賃貸する旨の契約を締結し、これを引き渡した(本件賃貸借契約)。

(一) 期間 本件賃貸借契約成立の日から満一〇年間又は本件契約の終了した日のいずれか早く到来する日まで(本件賃貸借契約二条)

(二) 賃料額及び賃料支払時期 別紙賃料一覧表記載のとおり

ただし、賃料の起算日は、被告会社が本件物件の引渡しを受けた日又は本件契約一二条所定の開業研修終了日のいずれか遅い日とする(本件賃貸借契約三条)。

(三) 賃料についての遅延損害金の割合日歩五銭(本件賃貸借契約一三条)

(四) 特約 被告会社の都合によって本件賃貸借契約が終了した場合には、被告会社は、既払賃料の返還を請求できない(本件賃貸借契約二〇条)。

4  被告二見の連帯保証契約

被告二見は、平成元年一二月二〇日、原告との間で、被告会社の原告に対する本件契約に基づく債務及び本件賃貸借契約に基づく債務について連帯保証する旨の合意をした。

5  被告会社による権利金及び保証金の支払

(一) 本件契約には、権利金に関し、次の条項がある。

(1) 被告会社は、原告に対し、本件契約上の地位を取得する対価として権利金一〇六二万九四五二円(以下「本件権利金」という。)を原告指定の方法によってすみやかに支払う(一三条一項)。

(2) 被告会社が、その支払を怠り、本件契約を解除された場合は、本件権利金相当額を損害金として支払う(一三条三項)。

(二) 被告会社は、原告に対し、平成元年一二月二〇日、本件契約の締結に際し、本件権利金を支払った。

(三) 本件賃貸借契約には、保証金に関し、次の条項がある((1)及び(2)は、本件賃貸借契約一九条、(3)は、同二〇条)。

(1) 被告会社は、本件賃貸借契約成立後直ちに、原告に対し保証金として二〇〇万円(以下「本件保証金」という。)を交付する。

(2) 本件賃貸借契約が事故なく期間満了により終了したときには、原告は被告会社に対し本件保証金を返還する。

(3) 事由のいかんにかかわらず、被告会社の都合によって本件賃貸借契約が終了した場合には、被告会社は、本件保証金の返還を請求できない。

(四) 被告会社は、原告に対し、平成元年一二月二〇日、本件賃貸借契約の締結に際し、本件保証金二〇〇万円を交付した。

6  本件契約及び本件賃貸借契約の解除

平成五年八月二一日に、本件契約及び本件賃貸借は解除された(解除原因については争いがある。)。

二  争点

1  本訴

(一) ロイヤリティーの支払請求について

(1) ロイヤリティー支払義務の発生時期

(2) 平成五年八月二一日解除による支払義務消滅の有無

(3) 念書交付義務違反による支払義務発生の有無

(4) 支払猶予の合意の有無及び債権放棄の有無

(二) 報告義務違反による違約金請求について

(1) 時機の後れた攻撃防御方法か否か。

(2) 報告義務違反の有無

(3) 報告義務違反の場合の違約金を定めた条項の効力

(三) 念書交付義務違反による違約金請求について

(1) 時機に後れた攻撃防御方法か否か。

(2) 念書交付義務違反の有無

(3) 信義則違反、権利濫用、公序良俗違反の有無、損害の有無

(四) 競業禁止の請求及び違約金請求について

(1) 時機の後れた攻撃防御方法か否か。

(2) 競業禁止の範囲

(3) 競業禁止条項の効力の有無

(4) 競業禁止違反の有無

(5) 公序良俗違反の有無、損害の有無

(五) 本件賃貸借契約に基づく賃料の請求について

(1) 賃料支払義務の発生時期

(2) 賃金債権の放棄の有無

(六) 本件権利金及び本件保証金相当額の返還請求権ないし損害賠償請求権による相殺の可否

(1) 原告は、本件契約及び本件賃貸借契約締結の際に、虚偽の説明をして被告会社を欺罔したか否か。

(2) 原告は、右契約締結の際に、故意又は過失により、虚偽の説明をすべきではない義務に違反し、被告に損害を発生させたか否か。

(3) 原告は、本件契約及び本件賃貸借契約の合意解除により、本件権利金及び本件保証金を返還すべきか否か。

2  反訴請求に関して

被告会社が原告に対し本件権利金及び本件保証金相当額の返還請求権ないし損害賠償請求権を有するか否かについて、前記1(六)の(1)ないし(3)と同じ

三  争点に対する当事者の主張

1  ロイヤリティーの支払請求について

(一) 争点(一)(1)(ロイヤリティー支払義務の発生時期)について

(1) 原告の主張

本件契約の日は、平成元年一二月二〇日であるから、四年目のロイヤリティーの支払義務の発生時期は、平成四年一二月二〇日、五年目のロイヤリティーの支払義務の発生時期は、平成五年一二月二〇日である。

よって、原告は、被告会社に対しては本件契約に基づき、被告二見に対しては連帯保証契約に基づき、四年目のロイヤリティー一三〇万円に消費税相当額を加えた一三三万九〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成四年一二月二一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金と、五年目のロイヤリティー一三〇万円に消費税相当額を加えた一三三万九〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成五年一二月二一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

(2) 被告らの主張

本件契約においては、各年度のロイヤリティーは、被告会社が本事業を開始した日から一年分の対価とすると定められている(一四条二項ただし書)。

ところが、被告会社が本件契約に基づいて本事業を開始したのは、原告から洗浄機器運搬用自動車(以下「本件自動車」という。)を購入し、本件自動車の引渡しを受けた平成二年六月二日であるから、四年目のロイヤリティーの支払義務の発生時期は、平成五年六月三日である(なお、五年目のロイヤリティーの支払義務は発生しない。)。

(二) 争点1(一)(2)(平成五年八月二一日解除による支払義務消滅の有無)について

(1) 被告らの主張

平成五年八月二一日には、本件契約が合意解除されたから、被告会社に四年目のロイヤリティーの支払義務があるのは、平成五年六月三日から同年八月二一日までの間の八〇日間分二八万四九三一円だけである。

(2) 原告の主張

被告会社は、ロイヤリティー及び賃料の不払のほか、①本件契約に基づく営業報告義務の不履行、②所定の地域外で営業を行う場合のエリア賃貸料(一七条二項)の不払、③保険加入契約書の写しの提出義務(一二条四項)の不履行があり、本件契約の解除は、右の債務不履行を原因とするもので、本件契約解除によっても、四年目及び五年目のロイヤリティーの支払義務は消滅しない。

(三) 争点1(一)(3)(念書交付義務違反による支払義務発生の有無)について

(1) 原告の主張

平成五年八月二一日に本件契約は解除されたが、本件契約上、被告会社が、本件契約二二条一項所定の念書の作成・交付をしない限り、平成五年一二月二〇日を支払期日とする五年目のロイヤリティーの支払義務が発生する。

(2) 被告らの主張

本件契約二二条一項所定の念書の作成ができなかったのは、後記3(二)のとおりの理由であり、被告会社に責任はないから、五年目のロイヤリティーの支払義務は生じない。

(四) 争点1(一)(4)(支払猶予の合意の有無及び債権放棄の有無)について

被告らは以下のとおりの主張をし、原告はこれを否認する。

被告会社が本事業を行うについて、次のような問題が発生した。すなわち、(1)原告が被告会社のエリアを侵害して営業したにもかかわらず、被告会社に報告せず、その補償金も支払わなかった、(2)ケミカル(洗浄剤)にも毒性のものが含まれており、これによって、再三、被告会社の社員が傷害を受けたが、被告会社が求めたにもかかわらず、原告は改善しなかった、(3)洗浄機器がたびたび故障し、パーツの交換を求めても、原告は対応せず、被告会社は仕事のできないこともあった、(4)本件自動車も故障が多く、仕事に支障を来した、(5)原告の指導する方法では水の飛散が激しいので、その対策を要求したが、原告は、改善しなかった。

そこで、被告会社は、原告に対し、平成三年三月ころから、これらの点についての改善及び速やかな処理を要求し、原告の専務取締役菅谷弘道(以下「菅谷」という。)は、改善すると述べていたが、解決に至らず、被告会社は、このままでは仕事は続けられないし、ロイヤリティーの支払も猶予すると述べ、菅谷は、解決するまでそのままで結構である旨回答した。

そして、被告会社と原告は、平成五年八月二一日、本件契約を合意解除し、原告は、同日、四年目のロイヤリティー請求権を放棄した。

2  報告義務違反による違約金請求について

(一) 争点1(二)(1)(時機に遅れた攻撃防御方法か否か。)について

被告らは、原告の報告義務違反に関する主張は、第二一回口頭弁論期日に至って主張されたもので、時機に後れた攻撃防御方法として許されないと主張する。

(二) 争点1(二)(2)(報告義務違反の有無)について

(1) 原告の主張

被告会社は、別紙「営業報告状況一覧」記載のとおり、平成二年六月分から平成五年六月分までの三七か月分のうち一九回にわたって右営業報告を遅滞し、平成四年一一月分については、営業報告自体をしなかった。また、被告会社は、平成四年六月一〇日以降の六か月分については、すべて同年一一月一四日に報告するという著しく不誠実な行為をした。これらの行為は、報告義務を定めた本件契約の条項に違反する。よって、原告は、被告会社に対しては本件契約に基づき、被告二見に対しては連帯保証契約に基づき、違約金一〇〇〇万円及びこれに対する請求拡張の準備書面送達の日の翌日である平成八年一二月二六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

(2) 被告らの主張

被告会社は、原告に対し、営業報告を行った。

(三) 争点1(二)(3)(報告義務違反の場合の違約金を定めた条項の効力)について

被告らは、原告が被告会社を含むサブライセンシーに営業内容をこと細かに報告させているが、それは必要のないことであり、サブライセンシーに過度の労力を強いるだけのことであるし、被告会社の報告が遅れても、原告に対しては何らの損害も障害も与えないから、前記一〇〇〇万円の支払条項は、著しく不公平な条項であり、信義則ないし公序良俗に反して無効であると主張する。

3  念書交付義務違反による違約金請求について

原告は、被告会社に対しては本件契約に基づき、被告二見に対しては連帯保証契約に基づき、平成五年八月二一日に本件契約が解除されたことによる念書交付義務の違反を理由とする違約金一〇〇〇万円及びこれに対する請求拡張の準備書面送達の日の翌日である平成九年九月一二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるが、これに対する被告らの主張は次の(一)ないし(三)のとおりである。

(一) 争点1(三)(1)(時機に後れた攻撃防御方法か否か)について

念書交付義務違反による違約金の請求は、第二七回口頭弁論期日に至って初めて主張されたもので、時機に後れた攻撃防御方法であり、信義則上も許されない。

(二) 争点1(三)(2)(念書交付義務違反の有無)について

原告が被告会社に対して送付してきた念書のひな形には、「本契約終了後一〇年間は本契約上の事業と類似又は競合する事業を行いません」との条項が含まれていたが、これは、本件契約二一条一項で定められている以上の内容であり、また、被告会社は、本件契約締結前から外壁洗浄作業を行っていたところであって、右条項は被告会社にとって極めて不利な内容を含むものであるため、右のひな形は認められないと主張し、原告の担当者の菅谷と話合いをしていたところ、本件訴訟が提起されたものである。したがって、被告会社は、本件契約二二条一項に定める念書の作成・交付を拒否したことはない。

(三) 争点1(三)(3)(信義則違反、権利濫用、公序良俗違反の有無、損害の有無)について

(1) 被告会社が前記念書の作成・交付をしないとして本件契約の違反を主張することは、信義則に反し、あるいは権利の濫用として許されない。

(2) 本件契約中、前記一〇〇〇万円の支払に関する条項は、著しく不公平な条項であり、公序良俗に反し無効である。

(3) 被告会社が原告に右念書を交付しないことにより、原告に損害は発生していない。

4  競業禁止の請求及び違約金請求について

(一) 争点1(四)(1)(時機に後れた攻撃防御方法か否か。)について

被告らは、原告の競業禁止に関する主張は、第二七回口頭弁論期日に至って初めて主張されたもので、時機に後れた攻撃防御方法であり、信義則上も許されないと主張する。

(二) 争点1(四)(2)(競業禁止の範囲)について

(1) 原告の主張

本件契約二二条三項の原告から「ノウハウの教示を受けた事業」とは、洗浄剤又はワックス及び動力を用いた洗浄機器を使用した建造物・車両・機械を対象とした洗浄業務をいうのであるから、被告会社は、本件契約が終了した平成五年八月二一日から一〇年間、右業務と類似又は競合する業務を行わない義務があり、本件口頭弁論終結の日の翌日である平成一一年七月一日から平成一四年八月二〇日までの間、右業務の禁止を求める。

(2) 被告らの主張

被告会社が原告から教示を受けたノウハウとは、原告販売の洗浄機器を使って原告販売のケミカル(洗浄剤)を使用して外壁を洗浄することである。

また、被告会社は、本件契約を締結する前から外壁洗浄剤事業を行っていたし、原告が販売する洗浄機器のほかにも、多種多様な高圧洗浄機が市販されており、レンタルでも利用できるようになっているから、外壁洗浄事業は、原告に特有の事業でなく、一般の企業で普通に行われている事業である。

したがって、本件契約によって制限されるのは、原告販売の洗浄機器を使って原告販売のケミカル(洗浄剤)を使用して外壁を洗浄することに限られる。

(三) 争点1(四)(3)(競業禁止条項の効力の有無)について

被告らは、本件契約の競業禁止条項が原告の主張するような内容であるとすれば、この条項は、営業自由競争を極度に制限する著しく不公平な条項であり、公序良俗に反し無効であると主張するほか、被告会社は、本件契約を締結する前から外壁洗浄事業を行っていたものであるから、これを制限するのは信義則に反して許されないと主張する。

(四) 争点1(四)(4)(競業禁止違反の有無)について

(1) 原告の主張

被告会社は、本件契約が終了した後も、次のとおり、本事業を継続し、競業禁止に違反する行為をしている。

ア 被告会社は、平成九年一月七日、奈良北団地自治会に交付した被告会社の会社案内において、外壁クリーニングを挙げ、かつ、その工法としてスパークルウォッシュの名称を使用し、「SW工法」で洗浄作業を行うことを明示した。

イ 被告会社は、宣伝用パンフレットに、本件契約の存続中にスパークルウォッシュの施工実績として原告に報告した写真を利用している。

ウ 被告会社が奈良北団地自治会に宛てた平成八年一二月二八日付け見積書には、「品名規格」として外壁クリーニングを挙げている。

エ 前記会社案内に掲載されている実績一覧は、被告会社が本件契約の存続中、原告のサプライセンシーとして施工したスパークルウォッシュ工事の施工例である。

オ 被告二見が、本件契約終了後に使用している名刺は、本件契約継続中に使用していた名刺からSPARKLEWASHのロゴ及びスパークルウォッシュ相模本部の名称等を除いただけの、ほとんど同一視できるものである。また、右名刺には、原告がスパークルウォッシュの宣伝のために使用しているキャッチフレーズを盗用している。

カ 被告会社は、原告が平成九年一月二二日、原告の顧客である住友化学つくば研究所に対し、受注の申入れをした。

キ 被告会社が使用しているファクシミリの番号は、本件契約存続中の番号と同一である。

(2) 被告らの主張

被告会社が奈良北団地自治会に出した会社案内は、被告会社の社員が、たまたま社内に残っていた古い会社案内を間違って交付したものであり、現在はもちろん、それ以前も使用していない。また、被告会社は、その後右自治会から工事の受注をしていない。

そのほか、被告会社が競業禁止に違反する行為をしているとの主張は争う。

(五) 争点1(四)(5)(公序良俗違反の有無、損害の有無)について

原告は、被告会社に対しては本件契約に基づき、被告二見に対しては連帯保証契約に基づき、競業禁止違反の違約金七〇〇〇万円及びこれに対する請求拡張の準備書面送達の日の翌日である平成九年九月一二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるが、これに対する被告らの主張は、次のとおりである。

(1) 本件契約中七〇〇〇万円の支払の条項は、著しく不公平な条項であり、公序良俗に反して無効である。

(2) 仮に、被告会社に競業禁止に違反する行為があるとしても、原告にはそれによる損害の発生がないから、被告らには、損害賠償義務はない。

5  本件賃貸借契約に基づく賃料の請求について

(一) 争点1(五)(1)(賃料支払義務の発生時期)について

(1) 原告の主張

原告は、被告会社に対しては本件賃貸借契約に基づき、被告二見に対しては連帯保証契約に基づき、平成四年一二月二〇日限り支払うべき賃料二九二万円及び消費税額八万七六〇〇円の合計三〇〇万七六〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成四年一二月二一日から支払済みまで日歩五銭の割合による約定遅延損害金の連帯支払を求める。

なお、平成五年八月二一日の解除は、被告会社の債務不履行に基づくものであるから、右解除後の分についても支払義務を免れない。

(2) 被告らの主張

本件賃貸借契約には、賃料の起算日は、被告会社が本件物件の引渡しを受けた日又は本件契約一二条所定の開業研修終了日のいずれか遅い日と定められている(本件賃貸借契約三条二項ただし書)が、被告会社が原告から本件物件の引渡しを受けたのは、平成二年六月二日であるから、本件賃貸借契約の賃料は一〇九五日分の支払により平成五年六月二日まで支払済みで、かつ、同年八月二一日には、本件賃貸借契約が合意解除されたから、被告会社に支払義務が生じたのは、平成五年六月三日から同年八月二一日までの八〇日間分六四万円だけである。

(二) 争点1(五)(2)(賃料債権の放棄の有無)について

被告らは、原告が、平成五年八月二一日に、原告主張の賃料債権を放棄したと主張する。

6  本件権利金及び本件保証金相当額の返還請求権ないし損害賠償請求権による相殺の可否について

(一) 争点1(六)(1)(原告は、本件契約及び本件賃貸借契約締結の際に、虚偽の説明をして被告会社を欺罔したか否か。)について

被告らは、次の(1)ないし(3)のとおりの主張をし、(4)のとおりの意思表示をした。原告はこの主張を争う。

(1) 原告は、被告会社に対し、本件契約を締結するに際し、損益分岐点の説明として、月間経費一四一万二〇〇〇円、年間経費一六九四万円とし、月間損益分岐点は一八八万円であると説明し、被告会社は、これを信じて本件契約を締結した。

(2) しかし、実際は、本件自動車一台を所有して本件契約に基づいて外壁洗浄を行うには、月間約五一三一万円の経費が必要であり、これ以下の収入では営業として成り立たず、前記原告の説明は虚偽であることが判明した。

(3) しかも、原告の内部資料から見ても、原告の加盟店の平均売上げは一か月約一八一万円から二九五万円であり、年間五一三一万円以下の売上げを確保することは不可能であることが判明した。

(4) そこで、被告会社は、原告に対し、平成八年一月二四日の本件第一四回口頭弁論期日において、本件契約を詐欺を理由として取り消す旨の意思表示をし、本件権利金相当額及び本件保証金相当額の合計一二六二万九四五二円の返還請求権と前記1(二)(1)の二八万四九三一円のロイヤリティー請求権及び前記5(一)(2)の六四万円の賃料請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(二) 争点1(六)(2)(原告は、本件契約及び本件賃貸借契約締結の際に、故意又は過失により、虚偽の説明をすべきではない義務に違反し、被告に損害を発生させたか否か。)について

被告らは、次の(1)のとおりの主張をし、(2)の意思表示をした。原告はこの主張を争う。

(1) 原告は、本件契約を締結するに際し、損益分岐点あるいは必要経費について正しい数字(資料)をもとに説明すべきところ、故意又は過失により、前記(一)(1)のような虚偽の説明をしたため、これにより、被告会社は、本事業により利益が得られると誤信し、本件契約を締結し、本件権利金及び本件保証金合計一二六二万九四五二円を支払い、同額の損害を被った。

(2) そこで、被告会社は、前記第一四回口頭弁論期日において、右損害賠償請求権と前記(一)(4)記載のロイヤリティー及び賃料請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(三) 争点1(六)(3)(原告は、本件契約及び本件賃貸借契約の合意解除により、本件権利金及び本件保証金を返還すべきか否か。)について

(1) 被告らの主張

ア 本件権利金は、エリア(地域)内で仕事をする地位の対価であるが、本件契約が(合意)解除されたことにより、この地域内で仕事をする地位は解消したのであるから、原告は、被告会社に対し、本件権利金を返還すべきである。

イ 仮に、本件権利金は返還を要しないものとすると、原告は、一〇六二万円余を利得することになるとともに、再度このエリアを他人に売却して多額の金員を取得できることになり、不当な結果となる。

ウ 本件契約の契約書には、権利金を返還しない旨の条項はないし、本件契約の締結に際し、原告からも、権利金を返還しないというような説明はなかった。

エ 本件契約一三条三項では、被告会社が権利金の支払を怠り、本件契約を解除された場合には、本件権利金相当額を損害金として支払う旨定められているが、これは、契約が解除された場合、原告に権利金を取得する権利がないことを前提に損害金を定めたものである(原告が権利金を取得する権利があれば権利金そのものを請求することができるはずである。)。

オ そこで、被告会社は、平成六年六月一日の本件第二回口頭弁論期日において、本件権利金及び本件保証金の合計一二六二万九四五二円の返還請求権と前記(一)(4)記載のロイヤリティー及び賃料請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(2) 原告の主張

ア 本件権利金は、本件契約上の地位を取得する対価であり(本件契約一三条一項)、代金の性質を有するものであるから、契約の終了によって被告会社に返還されるものではない。

イ 本件権利金の性質は、原告の有する本事業に関する各種のノウハウ提供の対価で、サブライセンシーとしてスパークルウォッシュの商標・意匠の名称を使用して営業を開始し得る地位の対価であり、被告会社が開業するまでに原告が被告会社に供与したマニュアル・案内・講習・説明・事例開示などの方法によって原告が被告会社に供与したノウハウを含む情報や開業条件の整備の対価であって、契約後一定の期間被告会社が営業を継続することの対価ではない。

ウ 被告会社は、本件契約上の地位を第三者に譲渡できるが、これは、本件契約一八条に定めた条件が整った場合に限られ、譲渡の可否はすべて原告の判断にゆだねられ、原告の承諾なく譲渡することはできないのであり、当然に投資を回収し得るものではない。

エ 原告は、被告会社に対し、本件契約前及び契約時において、本件権利金が原則として契約時に支払われるものであること、契約上の地位取得の代価として支払われるものであり、契約の終了(途中終了も含め)により返還されないことを説明し、被告会社は、これを聞いた上で、本件契約を締結したものであり、原告と被告会社は、本件権利金については、いかなる場合にも返還されないものとする合意をした。

オ 本件保証金返還請求権の発生についても、否認ないし争う。

7  争点2(本件権利金及び本件保証金相当額の返還請求ないし損害賠償請求(反訴))について

被告会社は、原告に対し、本件権利金相当額一〇六二万九四五二円及び本件保証金相当額二〇〇万円の合計一二六二万九四五二円並びにこれらに対する反訴状送達の日の翌日である平成六年六月八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるが、これに対する双方の主張は、前記6の(一)ないし(三)と同じである。

第三争点に対する判断

一  争点1(本訴)(一)(ロイヤリティーの支払請求)について

1  争点1(一)(1)(ロイヤリティー支払義務の発生時期)について

(一) 《証拠省略》によると、本件契約一四条二項は、「ロイヤリティーは、初回は二年分、それ以降は一年分つづ毎年契約成立月日迄に翌年分を送金して支払う。」とされていること及び本件契約の成立年月日が平成元年一二月二〇日であることが認められるから、四年目及び五年目のロイヤリティーの支払期限は、それぞれ平成四年一二月二〇日、同五年一二月二〇日であったことが認められる。

(二) 《証拠省略》によると、本件契約一四条二項ただし書において「各年度のロイヤリティーは、サブライセンシーが本事業を開始した日から一年分の対価とする。」としていること及び被告会社は平成二年六月二日に本事業を開始したことが認められるが、本件契約一四条二項ただし書は、毎年契約成立月日を支払期限とするロイヤリティーの対価となる本事業の期間を明らかにしたものであり、被告会社の場合には、平成四年一二月二〇日を支払期限とするロイヤリティーが、平成五年六月二日から平成六年六月一日までの期間の対価であることを明らかにしたものである。

(三) そうすると、四年目のロイヤリティーの支払期限は、平成四年一二月二〇日に到来していたが、その後平成五年八月二一日の本件契約解除により、それ以後の本事業の期間に対応する部分のロイヤリティーの支払義務が消滅したか否か、五年目のロイヤリティーの支払義務は発生するか否かが問題となる。そこで、2以下で検討することとする。

2  争点1(一)(2)(平成五年八月二一日解除による支払義務消滅の有無)について

(一) まず、《証拠省略》によると、本件契約一四条三項では、「サブライセンシーが、分割払いの場合も含め前項のロイヤリティーの支払いを一回でも怠った場合は、本部は本契約を解除することができる。この場合、……一年分一括払いの場合には、既払いロイヤリティーの返還を請求できない。」とし、一四条四項では、「本契約後サブライセンシーが本事業を開始しなかった場合でも、サブライセンシーはロイヤリティーの返還請求ができない。三年目以降も同様とする。」としている。すなわち、これらの規定では、一年分一括払いの場合に、支払期限が到来し、既に支払われたロイヤリティーについては、対価となる本事業の期間の全部又は一部について、実際に本事業を行わなかった場合でも、その一年分のロイヤリティーの返還がされないこととしている。

これらの規定では、一年分一括払いの場合に、一年分のロイヤリティーの支払期限が到来したが、いまだ支払われないまま契約が解除され、一部の期間について本事業を行わなかった場合のロイヤリティー支払義務がどうなるのかについては明確とは言い難い。しかし、既に支払われたロイヤリティーについて返還されるものではないとしていることとの均衡からすると、既に支払期限が到来し、支払義務が発生していたが、それを履行していなかったロイヤリティーについては、その後、本事業を一部行わない期間が生じたからといって、その期間の部分についてのロイヤリティーの支払義務を当然に免れるということにはならないと解される。

したがって、本件では、平成五年八月二一日の本件契約解除前に既に支払期限が到来していた被告会社の四年目のロイヤリティーについて、右解除後に本事業を行わなかった期間があるからといって、その分について、当然にその支払義務を免れるということはできない。

そこで、以下、当事者間の合意により、四年目のロイヤリティーの支払義務が消滅したか否かについて検討する。

(二) 《証拠省略》によると、以下の事実が認められる。

(1) 被告会社は、平成四年一二月二〇日を支払期限とする四年目のロイヤリティーと一〇九六日目から三六五日間分(四年目)の本件賃貸借契約の賃料(以下、ロイヤリティーと賃料の両者を合わせて「ロイヤリティー等」という。)の支払を遅滞したため、原告の担当者である菅谷がその支払を求めたところ、被告二見は、業務に用いる洗浄剤(ケミカル)の毒性を問題とし、より安全性の高い洗浄剤とその飛散防止の装置を開発してくれれば右のロイヤリティー等の支払をするとの回答をした。

(2) 本事業において使用可能な複数の洗浄剤のうちには、洗浄力は高いが毒性も高いものがあるため、原告は、サブライセンシーに対し、洗浄剤の取扱いについてのマニュアルを配布し、安全性の確保に努めるとともに、飛散防止のための装置の開発にも努めていたが、平成五年八月の段階では飛散防止装置は完成に至ってはいなかった。また、実際に、洗浄剤に触れた作業員の皮膚にかぶれなどの症状が発生したこともあった。

(3) だが、原告としては、右の洗浄剤の毒性や飛散防止装置の開発とロイヤリティー等の支払とは別の問題であるとして、被告会社に対し、あくまでロイヤリティー等の支払を求めることとし、被告二見に対し、右のロイヤリティー等の支払をするか、本事業をやめるかの選択をしてほしいとの申入れをした。これに対し、被告二見は、ロイヤリティー等の分割払を希望したため、原告が分割払をするのであれば、手形を振り出してほしいとの回答をしたところ、被告二見はそれには応じられないとの回答をした。

(4) そのため、平成五年八月二一日に、原告代表者と被告二見とが会って話合いをし、本件契約及び本件賃貸借契約を解除すること、被告会社が本件物件を返還した上、本件契約二一条、二二条の手続を同年八月末までに終了すれば、原告は四年目のロイヤリティー等の支払を免除することを合意した。そして、被告会社は、同月二七日には、原告に対し、本件物件を返還した。

(5) 本件契約二二条一項には、「期間の終了又は解除により本契約が終了した場合、サブライセンシーは、本部より貸与又は支給を受けた資料その他本業務遂行に必要な一切のものを本部に返還し、以後これを使用してはならないものとする。サブライセンシーが本部より有償で取得したもの、及び、サブライセンシーが、本部の許諾を得て自ら作成した本事業に関する資料及びSW消耗品についても、以後一切使用してはならず、この旨の念書を作成してこれを本部に交付する。」とされていたが、被告二見は、同年八月末近くになって、菅谷に対し、右念書のひな形の交付を依頼し、菅谷は、その依頼を了承するとともに、ひな形の作成は九月にずれ込むことになるが、そのひな形交付後すぐに念書を完成させて送り返せば、右(4)の免除の条件を満たすことになることを認めた。

(6) 菅谷は、平成五年九月一〇日に、被告二見に対し、「誓約書」と題する文書を送信したが、その中には、「本契約終了後一〇年間は、本契約上の事業と類似又は競合する事業を行わない。」との文章があり、また、続けて「本契約締結前に、外壁洗浄を行っていた場合は、それを実証出来る資料をご用意願います。」との文章を付加していた。

(7) 被告二見は、類似又は競合する事業を行わないという内容が、右の二二条一項所定の念書の内容とも異なり、承服できないとしてこれに応じないでいたところ、菅谷は、同年一一月二九日に、被告二見に対し、「誓約書」が顧問弁護士から被告二見宛に郵送される旨の書面を送信した。

(8) 原告訴訟代理人は、平成五年一二月一四日付けで、被告会社に対し、「誓約書」と題する書面を送付したが、この書面にも、「本契約終了後一〇年間は、本契約上の事業と類似又は競合する事業を行いません。」との文章があった。なお、同年九月一〇日に送信された文書には、前記(6)のとおり、「本契約締結前に、外壁洗浄を行っていた場合は、それを実証出来る資料をご用意願います。」との文章が付加されていたが、その後、被告会社がその資料を提出しなかったため、その点に関する文章は記載されていなかった。

(9) 被告会社は、右誓約書の作成に応じられない旨正式に回答したが、原告は、なおも、平成六年(月日空欄)の日付けの「誓約書」を送付し、「本契約終了後一〇年間は、本契約上の事業と類似又は競合する事業を行いません。」との約束文書を取り付けようとし、被告がこれに応じないと、平成六年三月一四日に、本訴を提起した。

(三) なお、証人菅谷(第一、二回)及び原告代表者は、平成五年八月二一日の解除の際に、被告二見が、四年目のロイヤリティー等の支払義務免除の条件として、原告代表者に「念書」の交付を約束したが、その「念書」とは、本件契約二二条一項の「念書」とは異なり、競業禁止を明記したものである旨の証言ないし供述をしている。しかし、右の平成五年八月二一日の話合いの直後に菅谷から被告二見に送信された文書では、右免除の条件として本件契約「第二一条、第二二条の手続きを終了して頂ければ、」としているにすぎず、また、菅谷と原告代表者が作成した陳述書においても、右免除の条件とされた「念書」が、本件契約二二条一項に定める念書とは異なり、競業の禁止を明記したものであることを明確にして合意を行った旨の記載はされていないことからすると、原告代表者と被告二見との間で免除の条件とされた念書の内容が本件契約二二条一項に定める内容を超えるものである旨の明確な合意があったことまでを認定することはできない。

(四) そこで、右(二)の事実を前提に、平成五年八月二一日の解除によって、同日以降の分に相当する四年目のロイヤリティー等の支払義務を免れるのか否かについて検討する。

(1) まず、右の解除に至る過程において、前記(二)(1)ないし(3)のとおり、より安全性の高い洗浄剤と飛散防止装置の開発に関する交渉があったものの、前記(二)(4)のとおりの合意がされたのであって、その合意は、被告会社に四年目のロイヤリティー等の支払義務があり、その債務の遅行遅滞があることを前提にした上で、本件契約二一条、二二条の手続を終了すれば、右の支払義務を免除するという条件のもと、本件契約及び本件賃貸借契約を解除するというものであると解されるから、被告会社の債務不履行を前提にした合意解除であったというべきである。

(2) しかし、その後、本件契約二二条一項に定められた「念書」の交付がないまま、長時間が経過したのであるから、右の合意解除に付された四年目のロイヤリティー等の免除の条件は満たされたとはいえず、被告は、右の合意解除によっては四年目のロイヤリティー等の支払義務を免れたとはいえない。

(3) 前記(二)(5)ないし(9)で認定したとおり、原告が、被告会社から類似又は競合する事業を行わないことを内容とする「誓約書」を得ようとしたため、「念書」の内容について合意が得られなかったという問題はあったものの、被告会社としては、その後、平成九年一二月二五日付けで原告に交付した念書のような自ら作成した文書を原告に対し一定期間内に交付するという方法もあったのであるから、右(二)(5)ないし(9)のような経過を考慮したとしても、四年目のロイヤリティー等の支払義務を免れたということはできない。

(4) なお、右の平成九年一二月二五日付け「念書」は、前記合意解除から四年以上を経過した後に交付されたもので、これによって、右免除の条件が満たされたということは困難である。念書の交付期限については、当初平成五年八月末日であったものが、その後の交渉の経過の中で不明確になったものと考えられるが、その作成に要する合理的な期間を超えれば、もはや右免除のための条件を満たしたとはいえないと解される。そして、四年以上を経過した場合には、右の合理的な期間を経過していることは明らかである。

(五) 以上の検討によれば、被告会社は、前記合意解除によって四年目のロイヤリティーの支払義務を免れたということはできない。

3  争点1(一)(3)(念書交付義務違反による支払義務発生の有無)について

(一) 《証拠省略》によれば、本件契約二三条では、「サブライセンシーは本契約が終了した後も、第二一条・第二二条所定の各事項を終結させるまでは、本部に対し第一四条所定のロイヤリティーを支払い続ける。」とされていることが認められる。

(二) そして、被告会社において、二二条一項所定の「念書」の交付をしていないまま長時間が経過したこと、その間、原告が被告会社から類似又は競合する事業を行わない旨の「誓約書」を得ようとして「念書」の内容について合意が得られなかったという事情があったものの、被告会社としては自ら作成した「念書」を交付するという方法もあったことは前記2(四)(3)のとおりであるから、被告会社は、「念書」の交付義務を尽くしたということはできない。

そうすると、被告会社には、右二三条の規定により、平成五年一二月二〇日を支払期日とする五年目のロイヤリティーの支払義務が生じるのではないかが問題となる。

(三) しかし、《証拠省略》によると、ロイヤリティーは、本来、一定区域内(被告会社の場合は相模原市、厚木市、町田市)の独占的営業の継続(二条)、SW消耗品の継続的な供給(五条、一六条四項)、米国及びカナダでパテント登録された洗浄機器(移動用ユニット)の継続的な使用許諾(四条)、マニュアルの貸与等によるノウハウの継続的な供与(六条、一〇条、一六条)、SPARKLE・WASHに関するサービスマーク、トレードマークの継続的使用の許諾(一条、七条)の対価と考えられるから、本件契約が解除された時点でいまだ支払期限が到来していなかったロイヤリティーについて、右の継続的利益を受けていないにもかかわらず、なお支払義務が発生するというのは合理性を欠く。

(四) そこで、本件契約二三条の前記条項は、サブライセンシーが本件契約「第二一条・第二二条所定の各事項を終結させる」ことを行わないことに対する制裁としての違約金(損害賠償額の予定)を定めたものと解さざるを得ない。

だが、右の「第二一条・第二二条所定の各事項を終結させる」の意味は明確とはいい難い。《証拠省略》によると、本件契約二一条一、二項は解除事由に関する条項であるから、これを「終結させる」というのは意味不明であるし、同条三項はそれ自体が損害賠償に関する条項であるから、この違反に対しさらに損害賠償義務を発生させるというのも理解し難い。また、二二条二項は、消耗品等の未払代金の支払に関する条項で、その不履行に対し、損害賠償として、ロイヤリティー相当額を支払うというのも不合理である。そうすると、本件契約二三条は、二一条四項の電話の売却、二二条一項の資料、消耗品の返還及び使用の禁止と念書の作成、二二条四項の競業禁止の各義務の違反に対する損害賠償の予定として、ロイヤリティー相当額の支払義務の発生が継続することを規定したものと解される。

しかし、電話や、資料、消耗品の継続使用や念書の作成義務違反も、それ自体が損害賠償の対象となるような意味を持っているとは解し難く、それらの義務違反が、競業禁止の違反行為の原因となることを懸念して設けられた条項であると考えられる。すなわち、本件契約二三条を設けた契約当事者の意思を合理的に解釈すると、電話や、資料、消耗品の継続使用や、念書作成義務の違反が、競業禁止違反をうかがわせるものとして、その制裁措置として、ロイヤリティー相当額の支払義務が発生し続けることを規定したものと考えられる。

ところが、本件の場合は、後記四3及び4のとおり、競業禁止違反自体に対するロイヤリティー相当額を考慮した損害賠償が認められるから、これに重ねて右二三条によって、念書の交付義務違反を理由とするロイヤリティー相当額の支払を認めることはできないというべきである。

(五) したがって、原告の被告らに対する五年目のロイヤリティーの支払請求は理由がない。

4  争点1(一)(4)(支払猶予の合意の有無及び債権放棄の有無)について

本件契約の合意解除に至る経過は、前記2(二)(1)ないし(4)のとおりであり、合意解除において、無条件の支払猶予や免除がされたということは認められない。

5  以上のとおりであるから、原告の被告らに対する四年目のロイヤリティー一三〇万円に消費税相当額を加算した一三三万九〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成四年一二月二一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める請求は理由があるが、五年目のロイヤリティーの支払請求は理由がない。

二  争点1(二)(報告義務違反による違約金請求)について

1  争点1(二)(1)(時機に後れた攻撃防御方法か否か。)について

報告義務違反による違約金の請求を行うことは、追加的に新たな訴えを提起するものであって、追加的な訴えの変更である。これにより著しく訴訟手続を遅滞させる場合には許されないが(民事訴訟法一四三条一項ただし書)、報告義務違反の主張は、第六回口頭弁論期日において陳述された原告の平成六年一一月一四日付け準備書面に既に記載されており、同期日において、その点に関する証拠(甲七)も提出されて、争点となっていたものであるから、右の訴えの追加的変更により著しく訴訟が遅滞するということはできない。したがって、右追加的な訴えの変更が許されないということはできない。

2  争点1(二)(2)(報告義務違反の有無)について

(一) 《証拠省略》によると、以下の事実が認められる。

(1) 本件契約一一条四項では、「サブライセンシーは、本部に対し、下記のとおり営業報告をしなければならない。

① 報告の時期 毎月一日から一五日までのものを当月二〇日までに毎月一六日から末日までのものを翌月五日までに到達する書面で行う。

② 報告内容

(a) 期間総売上

売り上げの内訳(顧客名・住所・電話番号・担当者名・金額・物件の種類・数量)、物件の所在場所、受注形態

(b) 就業人員」とされ、また、本件契約二五条には、サブライセンシーが第一一条に違反した場合には一〇〇〇万円の違約損害金を支払うとの規定がある。

(2) 右の報告義務については、平成二年六月ころ、前月末までの分を翌月一〇日までに報告すればよいことになり、月一回の報告に改められた。

(3) 被告会社の営業報告の状況は、別紙「営業報告状況一覧」記載のとおりであり、平成二年六月分から平成五年六月分までの三七か月分のうち、多数回にわたって営業報告が遅滞し、また、一回は営業報告自体がされなかった。

(4) 原告にとっては、原告自身が米国本社に対し営業報告の義務を負い、その違反があった場合にはペナルティーが課せられるため、サブライセンシーからの営業報告が必要であった。

(二) しかし、他方、《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

(1) 報告書の内容は、右(一)(1)②のとおりで、サブライセンシーにとってその報告書の作成が負担となっていた。

(2) 原告は、右(一)(3)のとおりの報告義務の遅滞について認識していながら、被告会社が平成二年、平成三年に業績を伸ばしたため、被告会社を評価し、右の報告義務違反を指摘して違約金を請求したり、あるいはその可能性を指摘して報告義務の履行を求めるということもなかった。

(3) さらに、前記一2(二)(4)のとおり、被告二見と原告代表者が会って話し合い、本件契約を合意解除した際にも、ロイヤリティー等の支払についての話はあったが、右違約金の支払についての話はされていない。

(三) そこで検討すると、被告会社が行うべき営業報告は、本件契約上は前記(一)(1)及び(2)のとおりであったものの、前記(二)(2)及び(3)のとおり、原告、被告会社間において、合意解除の際に違約金の支払が話題にされていないことを考慮すると、被告会社が行った前記(一)(3)のとおりの報告の程度であっても、原告、被告会社間において、これが一〇〇〇万円という高額の違約金の支払という結果をもたらすような重大な契約違反であるとの認識はなかったものと考えられる。それは、前記(二)(1)のとおり、サブライセンシーにとって営業報告は負担であり、他方、前記(一)(4)のとおり、原告にとっては米国本社との関係でサブライセンシーからの営業報告は必要であるものの、原告が被告会社の報告義務違反の結果、米国本社からペナルティーを課せられたという事情もうかがえないため、被告会社の報告の程度であっても、これが違約金請求に結び付くような契約違反であるとの認識がなかったためであると解される。

そうすると、被告会社の前記(一)(3)の程度の報告であっても、これが違約金請求の理由となるような契約違反であるとの認識は、原告、被告会社共になかったのであるから、本件契約一一条四項及び二五条の解釈としても、一定程度以下の報告義務違反は違約金請求の原因とはならないと解すべきで、被告会社の報告の状況は、その違約金請求の原因となる報告義務違反には該当しないというべきである。

(四) よって、報告義務違反を理由とする違約金の請求は理由がない。

三  争点1(三)(念書交付義務違反による違約金請求)について

1  争点1(三)(1)(時機に後れた攻撃防御方法か否か。)について

念書交付義務不履行による違約金の請求を行うことは、追加的に新たな訴えを提起するものであって、追加的な訴えの変更である。これにより著しく訴訟手続を遅滞させる場合には許されないが(民事訴訟法一四条一項ただし書)、念書交付義務不履行の主張は、第一回口頭弁論期日において陳述された原告の訴状で既に行われ、第三回口頭弁論期日には、その点に関する証拠の一部も提出されて、争点となっていたものであるから、右の訴えの追加的変更により著しく訴訟が遅滞するということはできない。したがって、右追加的な訴えの変更が許されないということはできない。また、右訴えの変更が信義則に反するということもできない。

2  争点1(三)(2)(念書交付義務違反の有無)について

(一) 本件契約二二条一項では、「期間の満了又は解除により本契約が終了した場合、サブライセンシーは、本部より貸与又は支給を受けた資料その他本業務遂行に必要な一切のものを本部に返還し、以後これを使用してはならないものとする。サブライセンシーが本部より有償で取得したもの、及び、サブライセンシーが、本部の許諾を得て自ら作成した本事業に関する資料及びSW消耗品についても、以後一切使用してはならず、この旨の念書を作成してこれを本部に交付する。」とされていたことは、前記一2(二)(5)のとおりであり、また、被告会社において、「念書」の交付をしないまま長時間が経過したこと、その間、原告が被告会社から類似又は競合する事業を行わない旨の「誓約書」を得ようとして「念書」の内容について合意が得られなかったという事情があったものの、被告としては自ら作成した「念書」を交付するという方法もあったのであるから、被告会社が「念書」の交付義務を尽くしたということができないことは、前記一3(二)のとおりである。

また、《証拠省略》によると、本件契約二五条では、サブライセンシーが二二条一項に違反した場合には、一〇〇〇万円の違約損害金を支払うとの条項があることが認められる。

(二) しかし、他方、原告から被告会社に対して念書の交付を求める文書では、念書の交付義務を履行しない場合のロイヤリティー等の支払についての言及はあるものの、右の一〇〇〇万円の支払について言及するものはない。平成六年一月一日付けの催告書には「約定の損害金は追って御請求致します。」とはしているものの、原告は、本訴の提起に当たっても、右の一〇〇〇万円の請求をロイヤリティー等の請求とともに行ったのではなく、本件訴訟進行の経過を見て、第一回口頭弁論期日から三年以上経過した第二七回口頭弁論期日に至って初めて右の一〇〇〇万円について追加的に訴えの変更をしたものである。

この経過と、念書の交付義務は、契約終了後にサブライセンシーが原告から取得した資料やSW消耗品の返還を受け、これらを使用しないことを確保し、ひいては競業禁止の効果を確保するためのもので、念書の交付自体が意味を持っているとは解されないこと、にもかかわらず、念書交付義務違反の場合の一〇〇〇万円という違約金は高額にすぎることなどを考慮すると、本件契約の当事者としては、念書の交付義務違反だけで、直ちに一〇〇〇万円の違約金の支払義務の発生という効果が生じるとは解していなかったと認めるのが相当であり、本件契約二五条の解釈としても、念書の交付義務違反により直ちに一〇〇〇万円の違約金の請求ができるとは解されない。

(三) したがって、念書の交付義務違反を理由とする原告の被告らに対する違約金一〇〇〇万円の請求は理由がない。

四  争点1(四)(競業禁止の請求及び違約金請求)について

1  争点1(四)(1)(時機に後れた攻撃防御方法か否か。)について

競業禁止の請求とその違反による違約金の請求を行うことは、追加的に新たな訴えを提起するものであって、追加的な訴えの変更である。これにより著しく訴訟手続を遅滞させる場合には許されないが(民事訴訟法一四三条一項ただし書)、競業禁止を定めた本件契約二二条三項は、訴状に既に記載されていたし、競業禁止の問題は、前記一2(二)(5)ないし(9)の認定からも明らかなとおり、原告が被告会社に交付を求めた「誓約書」の内容に盛り込もうとして当初から問題となっていたものであって、訴状で支払を求めたロイヤリティーの支払義務の判断にも関連するものであるから、この訴えの変更によって訴訟が著しく遅滞するということはできず、右の訴えの変更が許されないということはできない。また、右訴えの変更が信義則に反するということもできない。

2  争点1(四)(2)(競業禁止の範囲)及び(3)(競業禁止条項の効力の有無)について

(一) 《証拠省略》によると、本件契約二二条三項は、「サブライセンシーは、本契約中及び本契約終了後一〇年間は、本部からノウハウの教示を受けた事業と類似または競合する事業を行ってはならない。」としていることが認められる。

(二) 他方、《証拠省略》によると、本件契約は、米国本社から日本国内における本事業の独占的実施権を得た原告が、複数のサブライセンシーに対し、権利金支払を対価として、日本国内の一定地域内における独占的な実施権を与え(一条ないし三条、一三条)、また、右権利金及びロイヤリティーの支払を対価として、右の独占的営業の継続的許諾(二条)、SW消耗品の継続的な供給(五条、一六条四項)、米国及びカナダでパテント登録された洗浄機器(移動用ユニット)の継続的な使用許諾(四条)、マニュアルの貸与等によるノウハウの継続的な供与(六条、一〇条、一六条)、SPARKLE・WASHに関するサービスマーク、トレードマークの継続的使用の許諾(一条、七条)を行うものと認められる。なお、権利金は、「本契約上の地位を取得する対価」であるが(一三条一項)、サブライセンシーは、本件契約上の地位を取得することにより、右のような独占的な実施権が与えられるのみではなく、SW消耗品やノウハウの継続的供給、洗浄機器やサービスマーク、トレードマークの継続的使用許諾も受けられる地位を取得するのであるから、権利金はこれらのものの対価でもあるというべきで、その意味では、いわば(ランニング)ロイヤリティーの前払的な性格を有するものということができる。

(三) そして、被告会社は、本件権利金及びロイヤリティーの支払を対価として、独占的営業の継続、SW消耗品、ノウハウの継続的供給、洗浄機器、サービスマーク・トレードマークの継続的使用の許諾という利益を受けるのであるから、本件契約が終了したにもかかわらず、右ロイヤリティーを支払うことなく、本事業と類似又は競合する事業を継続するならば、原告と契約を締結してロイヤリティーを支払いつつ営業を継続している他のサブライセンシーの利益を保護することができず、ひいては米国から本事業の独占的実施権を取得している原告の利益を著しく損なうことになる。そこで、右(一)のとおり、本件契約二二条三項が「本契約終了後一〇年間は、本部からノウハウの教示を受けた事業と類似または競合する事業を行ってはならない。」とする条項を設けたことには合理性があり、被告会社は、この合意に拘束されるというべきである。

(四) そこで、原告の競業禁止の請求について検討する。

(1) まず、本件契約二二条三項により、競業禁止の請求が認められるのは、右(三)で述べたことからすると、日本国内における本事業、すなわち、「米国本社の開発等にかかる特殊洗浄機械・洗浄剤その他特殊設備を用いた建造物・車両・諸施設・機器の特殊洗浄事業(後記SW消耗品の販売も含む。)を、同社の用いるSPARKLE・WASHの名称のもとに、同社のサービスマーク・トレードマーク等を用いて行う事業」と類似又は競合する事業であると考えられる。

(2) もっとも、本件では、原告は、販売行為の禁止までは請求していないし、被告会社においてSW消耗品の販売を継続していた事実をうかがわせる証拠はないから、販売行為の禁止は問題とならない。また、本契約二二条三項が、禁止の対象を「本事業」とせず、「ノウハウの教示を受けた事業」としていることからすると、「SPARKLE・WASHの名称のもとに、同社のサービスマーク・トレードマーク等を用いて行う」との部分は禁止の対象の要件であるとは解されず、「米国本社の開発等にかかる特殊洗浄機械・洗浄剤その他特殊設備を用いた建造物・車輛・諸施設・機器の特殊洗浄事業」と類似又は競合する事業であれば、禁止の対象になるものと解するほかない(なお、原告の請求では、「諸施設」を対象とするものは除かれ、「機器」については、「機械」に限定されている。)。

(3) ところで、《証拠省略》によれば、右の「特殊洗浄機械」「特殊設備」とは、主として「スパークルウォッシュ一〇二五Dプロデュースマニュアル」に示された高圧洗浄機を含む本件物件(移動用ユニット)を指すものと解され、また、「洗浄剤」とは、原告が販売し、「スパークルウォッシュケミカルマニュアル」中に示した特殊洗浄剤「スパークルウォッシュケミカル」(コーティング剤も含まれている。)を指すものと考えられる。したがって、競業禁止の対象となるのは、日本国力における本件物件及び原告が販売する特殊洗浄剤「スパークルウォッシュケミカル」を用いた建造物・車輛・機械の特殊洗浄事業(スパークルウォッシュ事業)と類似又は競合する事業である。

(4) そして、原告の事業に関する新聞等の報道及び原告自ら行っている宣伝広告によると、本事業の主要な事業内容は建造物の外壁の洗浄であり、その洗浄を①足場を組まなくともできること、②高圧洗浄機器を使用し、短時間に広範囲の洗浄が可能であること、③その洗浄を圧力のみではなく、洗浄剤(ケミカル)の洗浄作用を利用して行うこと、④洗浄のみではなく、コーティング剤も使用し、外壁の保護も行うことに特徴があることが認められる。

(5) ところが、《証拠省略》によれば、市販の高圧洗浄機や、洗浄剤、その他の機材を用いるならば、本事業と類似又は競合する事業が可能となることが認められる。このような類似又は競合する事業を禁止するのが右条項であって、その禁止の対象となるか否かは、用いる洗浄機器、洗浄剤、洗浄方法と本事業で使用されるものとを比較し、その事業の類似性の程度により、社会通念によって個別具体的に判断するほかないが、右(4)の①ないし④の特徴のいずれも具備した事業は本事業と類似又は競合すると解することができよう。

(五) 原告は、「洗浄剤又はワックス及び動力を用いた洗浄機器を使用した建造物・車両・機械を対象とした洗浄業務又はこれに類似しあるいは競合する業務」は禁止されると主張するが、「洗浄剤又はワックス及び動力を用いた洗浄機器」に何らの限定がなく、また、それらを用いた洗浄業務だけではなく、それと類似又は競合する業務も禁止するとなると、結局、建造物・車輛・機械を対象として行われる洗浄業務のほとんどすべてを禁止することになりかねないが、そのような広範囲の禁止をすることはあまりに営業の自由を束縛するものとして不合理なばかりでなく、本件契約二二条三項の禁止の対象を「ノウハウの教示を受けた事業と類似または競合する事業」と限定していることにも合致しない主張である。

(六) この点について、証人菅谷(第二回)は、原告がサブライセンシーに提供するノウハウは、洗浄技術、洗浄機器及び洗浄剤に関するものに限定されず、外壁洗浄事業に共通する見積もりの方法や営業報告に関するものも含まれ、外壁洗浄事業のすべてが禁止の対象となる旨の証言をし、その陳述書にも、建造物・車輛・諸施設・機械の洗浄事業はすべて禁止の対象となる旨を記載している。そして、確かに、原告がサブライセンシーに対し提供するノウハウには、見積マニュアルや営業マニュアル及びこれらに関する「Q&A」などに記載されたものもあり、洗浄技術、洗浄機器及び洗浄剤に関するマニュアルに記載されたものに限定されてはいない。しかし、仮に、営業の方法や見積もりの方法までも含めて、類似の方法による事業を禁止しようとするならば、あらゆる事業が禁止の対象になりかねない。見積もりの方法や営業の方法といっても、本事業、すなわち米国本社の開発等にかかる特殊移動洗浄機械・洗浄剤その他特殊設備を用いた特殊洗浄事業に関するものに意味があるのであって、一般的な見積もり方法や営業の方法に関するノウハウまでが保護の対象となるものとは解されない。したがって、原告の提供するノウハウが菅谷証言のとおりであることは、前記(四)の判断を左右するものではない。

(七) なお、《証拠省略》によれば、被告会社が、本件契約締結前にも、外壁の洗浄事業を行ったことがあることが認められるが、被告会社は、自らの意思によって本件契約を締結し、前記(三)及び(四)のとおりの本事業と類似又は競合する事業が禁止されるという効果が生じることを認めたのであるから、本件契約締結前に外壁洗浄事業を行っていたからといって、被告会社に対し右競業禁止の効果が及ぶことを否定することはできない。

(八) 以上の検討によれば、被告会社は、本件契約が解除された平成五年八月二一日から、一〇年後の平成一五年八月二〇日までの間、日本国内において、別紙物件目録記載の洗浄機器(移動用ユニット)及び原告が販売する特殊洗浄剤「スパークルウォッシュケミカル」を用いた建造物・車両・機械の特殊洗浄事業(スパークルウォッシュ事業)と類似又は競合する事業を禁止されたというべきである。したがって、原告の被告会社に対する競業禁止の請求は、原告の請求の期間である平成一一年七月一日から平成一四年八月二〇日までの間、右の事業の禁止を求める限度で理由がある。

3  争点1(四)(4)(競業禁止違反の有無)について

(一) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

(1) 被告会社が、平成九年一月七日に横浜市青葉区の「奈良北団地自治会」に交付した被告会社の会社案内には、被告会社の業務として、「USA伝統のスパークルウォッシュ(SW工法)」を掲げ、「アメリカで二五年の歴史を誇る画期的な外壁クリーニング&コーティングシステム『スパークルウォッシュ』。見違える仕上げをお約束します。」との記載をしていた。もっとも、右会社案内では、会社概要として記載された事項に一九九二年までの事実しか記載されておらず、右の会社案内が平成五年当時のものであったことがうかがえる。

(2) また、同じく、被告会社が右奈良北団地自治会に交付した宣伝用パンフレットでは、被告会社は、「コンクリート 各種タイル」を対象に、「汚染を除去すると共に、他水からの侵入・付着を防ぐ」工法を行っており、それを「発電機+高圧洗浄機」、「環境を重要視した、液状・ペースト状、油形のケミカル」を使用し、「高層作業車」等「足場をなるべくかけない工法」で行うとしている。

(3) 被告会社が奈良北団地自治会に宛てた平成八年一二月二八日付見積書には、品名規格として外壁クリーニングを挙げるとともに、その作業仕様書等には、「洗剤をタイル面にブラッシングして三分から五分程度付け置きし汚れを浮き出させ一五〇キロメートルの圧力で目地部分の汚れとタイル表面部の汚れを洗い流します。」とし、右洗剤も、強酸性のものとアルカリ性のものとを使い分け、さらに、「足場を組まず屋上の取り元よりロープを垂らしゴンドラブランコ作業で行います。」との記載をしている。

(4) 被告二見が、本件契約終了後に使用している名刺には、「外壁」等の「コーティング&ウォッシュ」「汚れに応じてケミカル・コーティング剤を使い分けます。足場不要の為、経費コストダウンになります」「マシーンが電動型なので防音完備」などの記載があり、本件契約前に被告二見が使用していた名刺とは異なり、「SPARKLEWASH」とか「スパークルウォッシュ相模本部」の名称は使用していないが、全体のデザインは似ている。

(二) 被告二見は、その陳述書において、右(一)(1)の会社案内は、平成五年当時のものを担当者が「確認もせず」に同封して送ってしまったもので、これ以外に、本件契約解除前の資料を使って営業したことはないとの弁解をしている。しかし、被告会社に、本件契約解除前の平成五年当時の会社案内が平成九年一月時点でなお残されていること自体が問題である上、右(一)(2)ないし(4)に認定した宣伝用パンフレット、見積書、名刺に記載された被告会社の外壁クリーニング事業の特徴は、前記2(四)(4)で認定した本事業の特徴を備えるものであって、スパークルウォッシュの名称やサービスマーク等を使用していなくとも、本事業と類似又は競合する事業であるとの評価をすることができる。

(三) そうすると、被告会社は、平成九年一月の段階で、原告の本事業と類似又は競合する事業を行っていたということができ、また、右の宣伝用パンフレット、見積書、名刺の内容からすると、右の事業は継続的に行われていたと認められ、本件契約解除後口頭弁論終結時までの間において、右事業が継続していたと推認することができ、この推認を覆すに足る証拠はない。

4  争点1(四)(5)(公序良俗違反の有無、損害の有無)について

(一) 《証拠省略》によると、本件契約二五条では、サブライセンシーが、二二条三項の競業禁止に違反した場合には、七〇〇〇万円の違約損害金を支払うとされていることが認められる。右は損害賠償額の予定であり、実際に損害が発生したかどうか、また、いくらの損害が発生したかは、本来問題とはならない。

(二) しかし、右の七〇〇〇万円という金額は、本件契約一四条一項で定める四年目から六年目のロイヤリティーの年額一三〇万円の約五三倍で、約五三年分のロイヤリティー額に相当し、また、七年目から一〇年目のロイヤリティーの年額一四〇万円の五〇倍、五〇年分に相当する金額である。

このような金額は、損害賠償額の予定としてはあまりに高額であり、原告がサブライセンシーに対する優越的な立場を利用してサブライセンシーにとって一方的に不利な合意させた条項として、次に述べる相当な金額の部分を除き、公序良俗に反する無効な条項といわざるを得ない。

(三) そこで、競業禁止条項に違反した場合の損害賠償額として相当な金額であるが、後記六2のとおり、被告会社は、本件権利金の返還を請求できないと解されること、本件契約上、ロイヤリティー額のうち、六〇万円はSW消耗品の金額に相当すると考えられること(一六条四項)、前記一のとおり請求が認められる四年目のロイヤリティーの対価の期間である平成六年六月一日までの期間が終了した翌日の平成六年六月二日から口頭弁論終結時の平成一一年六月三〇日までは、約五年一か月に及んでいること、被告会社の競業禁止に違反した営業は、本件契約において限定された地域(相模原市、厚木市、町田市)に限定されていないこと、同営業によって得られた売上金額等は不明であるが、《証拠省略》によると、被告会社の右営業は、被告会社の全体の営業の一部にすぎないこと、などと諸事情を総合すると、六〇〇万円が相当であると解する。

5  そうすると、原告の被告会社に対する競業禁止の請求は、前記2(八)記載の範囲で理由があるが、その余の請求は理由がなく、また、被告らに対する競業禁止違反による違約金請求は、六〇〇万円とこれに対する請求拡張の準備書面送達の日の翌日である平成九年九月一二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。

五  争点1(五)(本件賃貸借契約に基づく賃金の請求)について

1  争点1(五)(1)(賃料支払義務の発生時期)について

(一) 《証拠省略》によれば、被告会社は、平成四年一二月二〇日に、原告に対し、一〇九六日目から三六五日間の本件物件の賃料として、二九二万円の支払義務を負ったことが認められる。

(二) そして、前記一2(二)(1)ないし(4)の認定によれば、平成五年八月二一日の合意解除の際、原告と被告会社との間では、被告会社が右賃料の支払義務があり、その債務の履行遅滞があることを前提にした上で、本件契約二一条、二二条の手続を終了すれば、右の支払義務を免除するという合意をしたこと、その後、本件契約二二条一項に定められた「念書」の交付がないまま、長時間が経過し、右の合意解除に付された右賃料債務の免除の条件は満たされたとはいえないこと、そのことは、前記一2(二)(5)ないし(9)で認定した経過や平成九年一二月二五日付けの念書の存在を考慮したとしても変わりがないことは、いずれも前記一2(四)の判断のとおりである。

2  争点1(五)(2)(賃料債権の放棄の有無)について

右のとおりであるから、本件賃貸借契約合意解除において、無条件の支払猶予や免除がされたということは認められない。

3  以上によれば、原告の被告らに対する本件賃貸借契約に基づく一〇九六日目から三六五日間分の賃料二九二万円に消費税相当額を加算した三〇〇万七六〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成四年一二月二一日から支払済みまで日歩五銭の割合による約定遅延損害金の連帯支払を求める請求は理由がある。

六  争点1(六)(本件権利金及び本件保証金相当額の返還請求権ないし損害賠償請求権による相殺の可否)について

1  争点1(六)(1)(原告は、本件契約及び本件賃貸借契約締結の際に、虚偽の説明をして被告会社を欺罔したか否か。)及び(2)(原告は、右契約締結の際に、故意又は過失により、虚偽の説明をすべきではない義務に違反し、被告に損害を発生させたか否か。)について

(一) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

(1) 被告二見は、本件契約締結の際、原告から、「損益分岐点」について説明を受けた。それによると、人件費二名分、ガソリン代他(「他」には、車関連の保険料や車検費用が含まれる。)及び諸経費(人件費関連の保険料や電話代が含まれる。)の合計を一〇〇万円とし、償却費(権利金五〇〇万円を一〇年で償却する場合の金額や、ロイヤリティーの金額を含む。)を四一万二〇〇〇円とし、その合計額一四一万二〇〇〇円の一二か月分の経費を年間稼働月数の九で除して得られる数値一八八万円が損益分岐点の月額であるというものであった。そして、右の損益分岐点に達するためには、一八〇〇平方メートル(五、六階建のビル一本ないし一・五本)の外壁の洗浄を受注することが必要であるとのことであった。

(2) 被告会社は、右の説明を受けて、本件契約及び本件賃貸借契約を締結し、本件契約に基づき本件権利金一〇六二万九四五二円を支払い、また、本件賃貸借契約に基づき本件保証金二〇〇万円を支払った。

(3) 原告においては、本事業を行うサブライセンシーの初年度の売上げの目安は一〇〇〇万円から一五〇〇万円程度であると解していたが、被告会社には、予想以上の売上げがあり、その売上金額は、初年度約二七七三万円(月平均約二三一万円)、二年目約四三〇三万円(月平均約三五八万円)であり、その後は売上げが減少してしまった。

(4) その後、被告二見が、平成八年に、自己の経験をもとに、本事業の損益分岐点を計算したところ、月額四二七万六二〇七円との計算結果を得た。もっとも、その計算では、作業員三名、営業職一名、事務職一名、パート二名を雇用することを前提とし、給与及び賞与の人件費だけで月額二五九万二五〇〇円を計上するものであった。

(二) 被告二見本人(第一回)は、損益分岐点について、原告からは、月額一八八万円である旨の口頭による説明があっただけで、その説明を鵜呑みにしたとの供述をするが、原告が、どのような条件設定のもとでの損益分岐点なのか明らかにしないまま説明するとは考え難いし、また、被告二見が、どのような条件設定かの説明がないまま月額一八八万円であるとの結論だけを口頭で伝えられてこれを鵜呑みにするということも考え難い。

(三) そこで、右(一)(2)の支出の前提となった右(一)(1)の説明が虚偽であるといえるか否かについて検討する。

(1) まず、原告代表者は、右(一)(1)の説明について、人件費、地代、家賃等及び車の台数は人によって異なることを前提に、人件費、ガソリン代他、諸経費の合計を一応月額一〇〇万円と仮定して計算すると、一八八万円の売上げが必要であるとの説明をしたにすぎないとの供述をする。そして、右(一)(1)の説明のみでは、人件費等の諸条件が異なれば、異なる結果が生じることはいうまでもなく、右の説明は、各人が、自己の諸条件を検討の上、採算について判断をすべきであることを前提に行われたものと解するほかない。したがって、右の説明が、すべての人にあてはまるという信頼を生じさせるような内容であったとはいえず、実際に本事業を行った際に、右の説明とは異なる費用を必要としたからといって、右の説明が虚偽であったなどということはできない。

(2) 仮に、本事業によってはおよそ利益を得ることが不可能であるにもかかわらず、原告が前記(一)(1)の説明をしたというのであれば、原告の説明は「虚偽」の説明であったともいい得るが、そのような事実を認めるに足る証拠はない。すなわち、被告会社においては、右(一)(3)のとおり、原告の説明による損益分岐点一八八万円を超える売上げを得たが、その際、実際にどの程度の費用を必要としたかについて、被告二見本人(第一回)は、本人尋問において質問を受けながらその点を明らかにしていないため、利益がなかったということはできず、本事業によってはおよそ利益が得られないなどということはできない。

(3) また、被告二見は、前記(一)(4)のとおり、独自に損益分岐点を計算しているが、その計算では、作業員三名、営業職一名、事務職一名、パート二名を雇用することを予定しているため、前記(一)(1)の説明とは前提を異にしているし、そのような前提のもとでなければ、本事業を行うことができないことを認めるに足る証拠もない。したがって、異なる条件を前提に、前記(一)(1)の損益分岐点と異なる結果が得られたからといって、それが「虚偽」の説明であるとすることはできない。

(四) そうすると、前記(一)(1)の説明が虚偽であるとは認められないから、右説明が虚偽であることを前提にする詐欺、又は債務不履行の主張は採用することができない。

(五) なお、《証拠省略》によれば、サブライセンシーであった株式会社インビックスとその親会社の株式会社大阪技術センターも、原告に対し、詐欺等を理由に損害賠償の請求をしたことが認められるが、《証拠省略》によれば、その後、右両会社は、原告との間で、その損害賠償請求を取り下げるという内容を含む訴訟上の和解をしたことが認められるから、右両会社が損害賠償請求をしたことは、右(三)の判断を左右するものではない。

(六) 以上によると、本件権利金及び本件保証金相当額の不当利得返還請求権ないし損害賠償請求権があることを前提とする被告会社の相殺の主張は理由がない。

2  争点1(六)(3)(原告は、本件契約及び本件賃貸借契約の合意解除により、本件権利金及び本件保証金を返還すべきか否か。)について

(一) 本件権利金について

(1) 本件権利金に関して、以下の事実が認められる。

ア 前記四2(二)のとおり、本件契約締結の際に被告会社が支払った本件権利金一〇六二万九四五二円は、「本契約上の地位を取得する対価」であり(一三条一項)、米国本社から日本国内における本事業の独占的実施権を得た原告が、被告会社に対し日本国内の一定地域内における独占的な実施権を与えたこと(一条ないし三条、一三条)の対価であると同時に、その独占的営業の継続(二条)、SW消耗品の継続的な供給(五条、一六条四項)、米国及びカナダでパテント登録された洗浄機器(移動用ユニット)の継続的な使用許諾(四条)、マニュアルの貸与等によるノウハウの継続的な供与(六条、一〇条、一六条)、SPARKLE・WASHに関するサービスマーク、トレードマークの継続的使用許諾を受けられる地位の対価であり、いわば(ランニング)ロイヤリティーの前払的な性格をも有する。そして、《証拠省略》によれば、右権利金の金額は、二〇〇万円に独占的実施権を与えられた地域内の人口数に二円から一〇円を乗じた数値を加算した金額であることが認められる。

イ また、《証拠省略》によると、本件契約では、サブライセンシーが権利金の支払を怠ったため本件契約を解除された場合には、「権利金相当額」を損害金として支払うとされていること(一三条三項)、本件契約の期間は一〇年間であり、当事者から反対の意思表示がない限り更に一〇年間更新されるが、更新の際には、サブライセンシーは、右権利金の二〇ないし三〇パーセントを更新料として支払うとされていること(二〇条)、サブライセンシーは、原告に対し一定の承諾料を支払って本件契約上の地位を譲渡することができるが、譲渡しの相手方は原告との協議により定め、協議が整わない場合には、譲渡することができないとされていること(一八条)が認められる。そして、証人千ヶ崎勝巳の証言によれば、サブライセンシーの中には、そのサブライセンシーとしての契約上の地位の一部を原告に譲渡した者があることが認められる。

ウ 《証拠省略》によると、本件契約締結時の被告会社に対する説明には、サブライセンシーの投資計画に関するものもあり、その際に、機械レンタルの保証金については、「契約満了時返却(一〇年)」との説明がされたが、権利金については、その他の費用と同様、返却する旨の説明がなかったこと、また、平成五年八月二一日の本件契約合意解除の際にも、四年目のロイヤリティー等の支払についての話合いがされたが、本件権利金の返還についての話合いはされていないことが認められる。

(2) 以上を前提に検討すると、まず、前記(1)アのとおり、本件契約において、本件権利金は、一定区域内の独占的実施権を伴う本件契約上の地位の対価であり、前記(1)イのとおり、その契約上の地位は、第三者に譲渡ができ、原告がその譲渡を受けた例もあることからすると、右の契約上の地位には財産的価値があって、被告会社は、権利金の支払によりその財産的な価値のある契約上の地位を取得したというべきである。そのため、その後、本件契約が、一定の事由によって将来に向かって解除される場合に、いったん取得した財産的価値あるものの取得の対価が当然に返還されるべきであるということにはならない。そして、証人菅谷(第一回)と原告代表者本人は、本件契約締結の際、被告二見に対し、本件権利金は返還しない旨の説明をしたとの証言ないし供述をし、被告二見本人は、これを否定する供述をしているが、前記(1)ウのとおり、本件契約合意解除の際に、本件権利金の返還について何らの話がされていないことからすると、当事者の認識は、本件権利金は返還されないものであるというものであったと解され、右の菅谷証言と原告代表者の供述は信用することができる。したがって、本件契約において、権利金の返還は予定されていないというほかない。

(3) 右の判断に反する事実等について検討を加える。

ア まず、前記(1)アのとおり、本件権利金は、ロイヤリティーの前払的な性格をも有するから、本件契約を将来に向かって解除することにより、ロイヤリティーが対価となる洗浄機器の継続的使用許諾等の利益を受けなくなった場合には、少なくとも将来分については返還すべきではないかが問題となる。

しかし、前記四2(六)の記載からも明らかなとおり、原告がサブライセンシーとの契約を締結することによって提供するノウハウには、洗浄技術、洗浄機器に関するもののほか、営業の方法、見積もりの方法に至るまで様々なものがあり、サブライセンシーは契約解除後に競業禁止の義務を負うとはいっても、これらのノウハウを利用した営業のすべてを排除することはできないのであるから、契約初期の段階でサブライセンシーが権利金の支払を対価として得たものは大きいといわなければならない。しかも、前記一2(一)のとおり、本件契約では、既に支払われたロイヤリティーについては、返還が予定されていないことをも考慮すると、本件権利金にロイヤリティーの前払的性格があるからといって、直ちに、契約解除の場合にその全部又は一部を返還すべきであるということにはならない。

イ 次に、本件契約解除の場合に、本件権利金が返還されないと、原告としては新たなサブライセンシーとの間で再度権利金を取得できることになって不当に利得するのではないかが問題となる。

しかし、右アのとおり、サブライセンシーは契約初期の段階でノウハウの提供を受け、契約解消後も、そのノウハウを利用した営業のすべてが排除されるわけではないし、前記(1)イのとおり、サブライセンシーには、契約上の地位を第三者に譲渡する方法があって、契約解消の場合に原告が常に他のサブライセンシーから新たな権利金を取得できるということにはならないことを考慮すると、右のような契約上の地位の譲渡によることなく本件契約が解除された場合に、原告が新たな契約者との間で再度権利金を取得できることとなったからといって、それが不当であるということまではできない。

ウ また、前記(1)イのとおり、本件契約一三条三項では、サブライセンシーが権利金の支払を怠ったため本件契約を解除された場合には、「権利金相当額」を損害金として支払うとされ、「権利金」を支払うとはしていない。

しかし、この規定は、権利金の支払がされず、本件契約上の地位が完全に取得されたとはいえない状態のときに、本件契約が解除された場合の規定であり、この規定から、いったん権利金が支払われて契約上の地位の取得がされた後に、契約が将来に向かって解除された場合の結論を論じることはできない。もっとも、右一三条三項によると、権利金未払の段階で本件契約が解除された場合でも、権利金相当額の経済的利益を原告が取得するとされているのであるから、権利金がいったん支払われて契約上の地位の取得がされた場合には、なおさら権利金という経済的利益の返還は予定されていないということも可能である。そうすると、右一三条三項の存在が、右(2)の判断を左右するものということはできない。

エ さらに、《証拠省略》によると、他のサブライセンシーの立場にあった者のうち、一社(株式会社大晃)からは、平成四年一〇月に、権利金及び保証金の返還請求がされ、また他の二社(株式会社ジップワールド及び有限会社フォーユー)も、権利金の返還請求をしたいと希望していたことが認められる。

しかし、《証拠省略》によれば、右のうち、株式会社大晃は、原告に対し、権利金及び保証金を訴訟により返還請求をしないまま、原告からの機械賃料等請求事件において敗訴したこと、また、株式会社ジップワールドは、原告に対し、「お互い一切権利関係がない」旨の念書を提出し、権利金の返還請求権の行使をしていないこと、有限会社フォーユーも、原告に対し権利金の返還請求はしていないことが認められる。したがって、サブライセンシーであった他社において、権利金返還請求の希望があったとしても、これを請求権として主張して法的な手段が採られた例はないのであるから、前記(2)の判断を左右するものではない。

(4) 以上の検討によると、本件契約において、本件権利金の返還は予定されておらず、被告会社にその返還請求権があることを前提にする相殺の主張は理由がない。

(二) 本件保証金について

(1) 《証拠省略》によれば、本件賃貸借契約一九条では、「本契約が事故なく期間満了により終了したときには、甲(注・原告のこと)は乙(注・被告会社のこと)に対し保証金を返還する。」としており、本件賃貸借契約締結の際の説明でも、保証金について「契約満了時返却(一〇年)」とされていたことが認められる。

(2) しかし、前記一2(四)(1)のとおり、本件賃貸借契約の合意解除は、被告会社の債務不履行を前提に行われたものであることからすると、本件の場合に、本件賃貸借契約が「事故なく期間満了により終了した」とはいい難い。他方、《証拠省略》によれば、本件賃貸借契約一一条では、賃料不払の場合の制裁措置として、「保証金の没収」が明記され、また、同契約二〇条では、「乙(注・被告会社のこと)の都合によって本契約が終了した場合には、乙は、保証金並びに既払賃料の返還を請求できない。」とされていることが認められる。そして、被告会社の債務不履行を前提にした合意解除がされた場合には、むしろ、本件賃貸借契約一一条や二〇条によって、保証金が返還されない場合に該当するということができる。

(3) しかも、《証拠省略》によると、平成五年八月二一日の本件賃貸借契約合意解除の際には、四年目のロイヤリティー等の支払について話合いがされたが、本件保証金の返還については何ら話が行われなかったことが認められる。

(4) そうすると、本件賃貸借契約においては、本件のように賃料不払を前提に、賃貸借期間の満了によることなく合意解除がされた場合には、本件保証金の返還請求は認められないとされていたと解さざるを得ない。そして、本件賃貸借契約において、本件保証金が、未払賃料債務や原状回復義務不履行の場合の損害賠償債務の担保であるだけでなく、期間満了によることなく本件賃貸借契約が終了した場合に発生する損害(賃貸借契約期間中の賃料によって回収を予定していた本件物件の価額相当額等)の担保であったとも解し得ることから、本件賃貸借契約において、右のように保証金の返還がされない場合の合意をしたからといって、その合意が著しく不合理であるということもできない。

(4) そうすると、賃料不払を前提にして本件賃貸借契約の合意解除がされた本件においては、本件保証金の返還請求は認められないというべきで、その返還請求権が存在することを前提とする被告会社の相殺の主張は理由がない。

七  反訴請求(争点2)に関して

右六のとおりであり、被告会社に、本件権利金及び本件保証金相当額の返還請求権ないし損害賠償請求権は認められないから、反訴請求は理由がない。

八  結論

以上のとおりであるから、原告の被告らに対する請求は次の1ないし4を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、また、被告会社の反訴請求は理由がない。

1  被告会社に対する平成一一年七月一日から平成一四年八月二〇日までの間、日本国内において、別紙物件目録記載の洗浄機器(移動用ユニット)及び原告が販売する特殊洗剤「スパークルウォッシュケミカル」を用いた建造物・車両・機械の特殊洗浄事業(スパークルウオッシュ事業)と類似又は競合する事業の禁止の請求

2  被告らに対する四年目のロイヤリティー一三〇万円に消費税相当額を加算した一三三万九〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成四年一二月二一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求

3  被告らに対する本件賃貸借契約に基づく一〇九六日目から三六五日間分の賃料二九二万円に消費税相当額を加算した三〇〇万七六〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である平成四年一二月二一日から支払済みまで日歩五銭の割合による約定遅延損害金の連帯支払の請求

4  被告らに対する競業禁止違反に基づく違約金六〇〇万円及びこれに対する請求拡張の準備書面送達の日の翌日である平成九年九月一二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払の請求

(裁判官 都築政則)

〈以下省略〉

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